volume01
プロジェクトストーリー
道玄坂通プロジェクトDogenzaka-Dori Project
Project Story
Tokyu Architects & Engineers Recruit Site

道を拓き、街の発展に貢献する
渋谷道玄坂エリアの都市開発

Prologue
2023年8月24日、大型複合施設「道玄坂通 dogenzaka-dori」が開業した。若者が行き交う渋谷の中心地、渋谷109の裏手にある文化村通りと道玄坂小路に面して位置している。渋谷の谷筋、南北の高低差12メートル、周囲には細かい道と雑居ビルが混在し、不利な接道条件というこの土地に、いかにして約4万平方メートルの大型商業施設が出来上がっていったのか。各担当者からの話を交えながら、このプロジェクトの背景を伺った。

回遊性を生み出す

敷地整序とコンセプト提案

渋谷といえば、エンターテインメントの発信地であり、多種多様な人が行き交う華やかなイメージがある。またその反面、さまざまな建物や用途が入り混じる“カオス”な側面も持ち合わせているようにも見える。道玄坂通りの裏手はまさにその代表格ともいえた。一歩足を踏み入れると、崩れかけた擁壁や、狭く暗い行き止まりの道路が目に入り、長い間時間が止まっているように感じるエリアだった。

東急設計コンサルタント((以下:東急設計))にこの道玄坂エリアの開発についての相談がやってきたのは2013年のこと。バブル時代からずっと、色々な開発の計画が持ち上がっては頓挫していたことは、当時、東急設計で都市計画部門を統括していた大場氏も耳にしていた。

当時のことを大場氏は次のように語る。

「初めにこの相談があった時には、“とうとう来たか”という気持ちでした。建築だけでなく、土木も土地開発も一気に請け負える当社ならこのプロジェクトを完成できる、むしろ他にないだろうと」(大場氏)

道玄坂通りの裏手

まず取りかかったのは、渋谷区から区画整理事業の認可を得ることだ。防災・防犯の向上、低未利用地の問題、区の宿泊施設不足、複数の道路に接し高低差がある地形であるという従前課題を提示した。それに対し、道路を動かし、小さく点在している土地をまとめ大きな土地に整理することで新たな動線を作る。それでこそ、この課題が解消されるという提案内容だった。また、この計画を進める中で、この敷地が道として、街の“回遊性”を担保する役割を持たせることも区画整理事業の大切なキーワードになっていった。

当時まちづくり室のメンバーとして渋谷区と協議に参加していた小村は次のように語る。

「区画整理の認可を得る過程では、渋谷という街に回遊性が求められていることをテーマに置いて、合意形成がされていきました。ただ建物が建つだけでこのプロジェクトは完結するものではなく、敷地の特性を活かしながら、建物と街を関係づけることが重要だと。その回遊性という言葉は事業化するにあたり、「道を通す」というコンセプトに引き継がれ、そのコンセプトを軸にして全てが積み上がっていくことになりました」(小村)

単なる拠点ではなく、既存の渋谷をより魅力的に、人の移動をさらに延長していくような「道」としての機能を果たすものを目指す。道玄坂通は、こうして2016年に事業推進が本格化した。

道玄坂通りの裏手
老朽化した擁壁

接道4mの広大な低未利用地

当初計画の3倍の高容積率化を実現

2016年に事業が本格化したことに伴い、社内には都市計画、建築設計、基盤設計などあらゆるチームが編成され、並行して複合的にプロジェクトに参加していくこととなった。

まず重要なのは細かく区分けされ、点在している土地を大きな敷地にまとめ、かつ接道条件を担保することだ。従前の敷地では3,470㎡の敷地面積に対し、接道箇所は4mのみ。最低限の土地を取り込み、施設外形範囲の最大化を図るため、周辺地権者との交渉を進めることが必要であった。渋谷のど真ん中で、地権者たちは幾度も地上げ交渉を持ちかけられたことだろう。それでも動かなかったのには、それぞれの地権者や建物所有者にも想い入れがあったと推測できた。

そこで東急設計は事業者や地権者に対して、区域内に新たに地権者用の敷地を設定する、換地という手法を提案した。この土地から離れ難いと考えている地権者に対し、従前のすぐそばの敷地を割り当てることで、今後もこの土地で新しい思い出を作っていけるような提案内容だった。

地権者敷地の建築設計を担当していた工藤は次のように語る。

「換地の仕組みが使えたのは、当社ならではではないかと思います。従前の土地から移転してもらうだけでなく、新しい建物の設計も当社が担当することで今よりも良くなるような立地、設計を提案することができたと思います」(工藤)

道玄坂通の建物も、換地による新しい建物も、東急設計が担当することで地権者にとっては安心感がある。細かく丁寧なやりとりが必要であったが、両者にとってベストな形を取れたのは、やりがいのある手法だった。また換地により地権者の土地が道路入り口手前に移動することになったため、奥深くまで伸びて行き止まりになっていた道路が不要となり、文化村通り側の敷地と空閑地となっていた中心部の土地をまとめることができた。

当社 設計監理 オーナー住宅、賃貸住宅、店舗

当時、まちづくり室として区画整理事業を推進していた福島は次のように振り返る。

「従前のように道路が細く奥まで伸びて行き止まりになった形状だと不法投棄や溜まり場となって治安悪化の原因になります。とはいえ、道を動かして、敷地を変えてまで都市開発をするのか、と当時転職してきて間もない私にとっては驚きでした。土木も建築設計もどちらもできる会社だからこそ、課題に対してこのような提案と挑戦ができるのだなと、東急設計の仕事に腹落ちした記憶がありますね」(福島)

結果、東急設計の助言による敷地形成は、当初の規模に対し約3倍の計画規模を実現し、接道条件をクリアすることで高容積率化を実現。土地の資産価値向上にも寄与することにつながっていった。しかし、区画整理事業が完成を迎えた2020年、時代を揺るがす新型コロナウィルスが猛威を振るうことになる。緊急事態宣言、外出自粛が要請され、否応なしにライフスタイルが変わっていった。それに伴い予定していた用途も変更を迫られることとなった。

道玄坂通 物件概要

事業主
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス他
事業手法
敷地整序型土地区画整理事業、共同ビル事業
建物用途
物販、飲食、事務所、ホテル、駐車場 等
敷地面積
5,896.36 ㎡
延床面積
41,766.92 ㎡
工事期間
2020年2月15日(着工)、2023年3月31日(竣工)
構造・規模
鉄骨造 ⼀部 鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造
地上27階/地下2階、高さ114.838m
設計会社
株式会社東急設計コンサルタント
施工会社
株式会社熊谷組 首都圏支店
協働設計
HIRSH BEDNER ASSOCIATES Tokyo office(ホテルインテリア)
株式会社cmyk(商環境)